危機の深淵
米国の金融危機は、不気味な様相を見せています。住宅ローンの元締めの住宅金融公社2社が、遂に政府の管理下におかれたのです。救済策が発表されたのは、日本時間の9月7日の日曜日です。内容は政府の管理下に置くことに加え、合計21兆6000億円という巨額な公的資金を投入することや、経営者の更迭などなっています。2つの住宅金融公社は半官半民の企業体です。そして、米国内の住宅ローンのほとんどについて、債務保証をしています。また、金融機関から住宅ローン債券を買い取ったうえ、証券化して販売しています。これらの事業を営むうえで必要な資金については、公社債を発行して調達してきました。
しかし、2007年夏に表面化したサブプライムローン問題の影響で、2つの公社の株が暴落しました。さらに、発行する公社債についても買い手が減少し、資金調達が思うようにできなくなっていました。その結果、経営危機に陥り、今年7月に米政府による支援を受けたばかりです。2つの公社が発行する公社債は、米国債に次いで信用力があるとあって、残高が530兆円にのぼっています。それだけに、米国を含む各国の大手金融機関は、2つの公社の公社債などを大量に保有しています。日本の場合、これまでに公表されたものだけで、保有残高は15兆円に達しています。
日本経済新聞が伝えるところによりますと、6月末から8月25日にかけて、中国の4大銀行の一つである中国銀行が、2つの公社の公社債の保有残高を29%減らしました。その結果、米財務省は危機感を募らせ、大規模な救済策に踏み切ったのです。その後も、日本の大手金融機関に対し個別に電話を入れ、保有している公社債を売却しないよう要請しているもようです。
世界中の投資家だけでなく、一般国民も新聞を注意深く読んでいれば、米国が金融資本主義にもがき苦しんでいることが分かります。金融資本主義は米国自身が主導し、世界中に広めました。金融工学の発達によって、金融商品の品揃えは数えきらないほどです。中には幾度も証券化を重ねた商品もあります。それらの商品は、すでに中身の一部がブラックボックス化しています。そのうえ、取り引きの形態も複雑になっており、金融当局も実態をつかむのに大わらわです。さらに、2つの住宅金融公社の場合、これまで信用力を背景に住宅金融市場を支配し続けてきました。また、多くの政治家を使って、経営体質の改善を求める声を摘み取ってきました。その結果、改革意欲に乏しい経営体質を生み、政府の管理下におかれる事態になりました。今や、行過ぎた金融資本主義の是正は先進国共通の認識です。先進各国の金融当局は、足並みを揃えて有効な対策を練り上げる義務と責任があります。
ロシアも予期せぬ経済的混乱に直面しています。8月上旬、隣国のグルジアに軍事侵攻したためです。それ以来、海外資本のロシアからの流出が続いています。ロシアは今年5月、企業に対する政府の関与を強めました。それ以来、株価が値下げに転じました。そうした中で、グルジアへの軍事侵攻は、株価の値下がりに拍車をかけています。また、原油価格も大きく値下がりしていることから、ロシア政府は必要な対策を迫られています。これまでところ、暴落するルーブルを買い支える為替政策しか実施していません。経済のグローバル化の下で、ロシアが直面した初めての苦悩です。欧米諸国から理不尽といわれようと、このまま強気の外交政策を貫くのかどうか眼を離せません。
12日午前、テレビのBS1で放送した「ブレアの戦争」というドキュメンタリー番組を、NHK総合テレビで見ました。ブレアというのは英国の前首相です。米国のブッシュ大統領と共にイラク戦争を始めた人物です。ブレア首相はイラク戦争の開始までは、正義の政治家・信念の政治家として高く評価されていました。しかし、イラク戦争を始めたのは、正義よりも信念に軸足を置き過ぎたからです。戦争を始める前、ブレア首相は3回ブッシュ大統領と会談しています。そのうち2回は、イラクにおける核兵器、生物兵器、化学兵器の有無について、徹底的に調査するようブッシュ大統領に進言しています。そうした中で、国連の調査団からも、米英の情報機関からも、「大量破壊兵器は無いようだ」という調査結果が上がってきました。
3回目の会談を迎えて、ブレア首相は大量破壊兵器がテロリストの手に渡れば、善良な市民が殺されるということを改めて強く意識します。米国の9.11事件が、終始、頭から離れていないためでした。ブッシュ大統領からも、「政権を失うようであれば、米国と共同歩調を取らなくてもいいんだ」とまで言われました。しかし、ブレア首相は国連や情報機関の調査結果や、戦争反対の側近たちの進言を無視する形で、戦争突入の決断をしてしまいます。
ヒットラーやムソリーニの台頭を許した英首相のチェンバレンや、コソボ紛争への介入に及び腰だった米国のクリントン大統領を例に、ブレア首相は「宥和政策は無策ということだ」と強調していました。コソボ紛争ではアルバニア人を中心に、75万人もが虐殺されたといわれています。ブレア首相の粘り強い働きかけで、クリントン大統領はようやく介入の意思を明らかにしました。その途端、セルビアのミロシェビッチ大統領は、コソボからセルビア軍を撤収させました。「正義とはそうした暴虐を絶対許さない確固たる信念だ」と、ブレア首相は繰り返し強調していました。その正義感の強い信念の政治家が、イラク戦争では誤った判断をしてしまいました。そして、今でもあの判断は、間違っていなかったと抗弁するのです。政治家の度し難さに困惑しました。「優れた政治や行政というのは、正義・公正を実現しようという強い信念を背景に、収集した情報を客観的に分析し得る能力のこと」です。我田引水的行為は政治でも行政でもありません。となりますと、今の永田町・霞が関をぶっ壊さない限り、日本のあすは開けません。###
(註)何しろ、肩が痛くて暫く中止します。
